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英語圏の音楽を中心にお届けします。海外メディアに埋もれている情報などゆるゆると。ちなみにNYは行ったことありません。

なぜ抗議殺到?!Beyoncéの新曲「Formation」のメッセージ

Beyoncé(ビヨンセ)が糾弾されるのって初めてではないでしょうか。ルックス、歌唱力、ダンス、円満な夫婦・家庭と非の打ちどころがない無敵の歌姫ビヨンセが、ここにきてバッシングを浴びています。全米最大のスポーツイベント、スーパーボウル(アメフトリーグの優勝決定戦)のハーフタイムでのパフォーマンスを控えて、サプライズ発表した新曲PVがとても「政治的」だったからです。スーパーボウル当日に披露したのもその新曲であったことから、「スポーツの祭典を政治の場に使うなー!」「警察をバカにしてんのかー」「暴力を容認する気かー」と抗議が殺到。試合後にはデモ活動まで行われたほど。抗議は当然想定されていたはず。それでも、「みんなが大好きなビヨンセ」から一皮脱いで「嫌われようが、大事なメッセージを伝えるビヨンセ」に踏み切った彼女の勇断に私は感動したし、応援したいです。では、新曲の何がそんなに問題となったのでしょうか?

まずは新曲「Formation」のPVから。開始3秒でいつもと違う空気を感じるはず

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NEW ORLEANS(ニューオーリンズ)と書かれた沈みかけのパトカーから始まるPV。そう、2005年8月末にのアメリカ南東部を襲ったハリケーン・カトリーナによって市の8割が冠水したのがニューオーリンズです。ブッシュ政権の当時はイラク戦争真っ只中。ニューオーリンズのあるルイジアナ州は兵の3分の1をイラクに送り込んでいたため、救済の人手が足りず、救援活動が大幅に遅れました。ニューオーリンズで車を持たない黒人貧困層は市内に取り残され、多くが犠牲となり、大混乱が続きました。メインで被災した地域が、アフリカン・アメリカン貧困層が多く居住するところであったことから、災害対応だけではなく、人種問題、国内の貧富の格差にまで議論が発展しました。白人が居住する地域であれば、被害はこんなに甚大にならなかったのではないか、といった批判も相次ぎました。未だに国内に根強く残る、人種間の格差をこのPVでは訴えています。

PVでもう一つ取り上げているのは、警察によるアフリカン・アメリカンの射殺が多発している問題です。銃社会でない日本ではちょっと想像のつかない事態ですが、アメリカでは正当防衛のための発砲が容認されています。例えば警察が強盗犯を追いかけて乱闘になり、身に危険を感じた場合、その場で射殺しても正当防衛として罪になりません。しかし、近年問題になっているのは、正当防衛という名のもと、全く武装していない(銃ももっていない)アフリカン・アメリカンが警察により不当に射殺されているということ。2015年には武器を持っていないアフリカン・アメリカン102人が警察に射殺されており、他のどの人種よりも多い数です。同様に射殺された「白人」もいますが、「黒人」はその5倍だそうです。重要なのは、武装していないにも関わらず殺されているという事実です。銃社会のアメリカでは、確かに犯人が銃を持っている可能性もあります。銃を見せられたら正当防衛として撃たなければ、警察が殺されてしまうでしょう。しかし、実際には正当防衛とは呼べないような発砲も相次いでいます。例えば、万引きによって通報された18歳の青年Micheal Brownは、逃走を試みたものの逃げきれず、振り返って、追ってきた警察(白人28歳)の方へ歩んだところ、すぐ発砲されます。万歳で降参のポーズもとっていたとされますが、12発も撃たれ、その場で亡くなりました。彼は銃を持っていない黒人でした。2014年の出来事です。

PVの4:27では、無邪気に踊るアフリカン・アメリカンの少年に対して銃を向ける警察の姿と「Stop shooting us(私たちを撃つのをやめて)」というメッセージが写っています。

ビヨンセが国民的スーパースターに君臨してから、十数年がたちますが、自身のアイデンティティ「Black Pride(黒人の誇り)」をはっきり表現した曲はこれまでにありませんでした。新曲「Formation」でビヨンセアフリカン・アメリカンであることを初めて意識し、脅威を感じた人も少なくないのかもしれません。抗議が殺到したスーパーボウルのパフォーマンス(1:33~)では、PV同様にアフロの黒人女性を従えて力強いパフォーマンスを披露しています。もっと複雑な背景や色んな言い分があるのかもしれないけれど、私はこの楽曲を行き過ぎとは全く思いません。「黒人」であるがゆえに不当に犠牲となっている人がいるのは事実だし、「Black Lives Matter(黒人の命を粗末にしないで)」を呼びかける活動をきちんと重要なムーブメントとして世の中に認識してもらう上で、彼女以上に適任で強力な後押し役はいないと思うからです。

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この曲が以下のウェブサイトで無料配布されていることからも、彼女の覚悟を感じます。入力したメールアドレスにダウンロードできるリンクが送られてきます。スマホでもダウンロード可です。次のアルバムがますます楽しみになりました。

beyonce.tidal.com